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一級小型船舶操縦士免許取得記 [資格]

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↑サンフランシスコ湾にて(イメージ)
 筆者はかつて港のほど近くに住んでいた。フェリーが乗船ゲートを上げ、係留ロープを解いて、ゆっくりと出航していく様は何度見ても飽きなかった。船橋で「微速前進」「宜候(ようそろ)」なんて言っているのだろうなと思うだけで、男のロマンをかき立てられた。
 そんな訳でいつかは船長になりたいと思ったものだが、船長になるには商船大学に行くか、戦闘艦なら防衛大学校に入る必要がある。しかし筆者は目先の就職のことだけを考え、電気関連の大学に入ってしまい、通勤距離が短いというだけで、船と全く関係のない地元の会社に就職してしまった。しかもその会社に25年以上も勤め現在に至っている。
 この絶望的状況から船長になる方法はないのか。いや、あった。小型船舶操縦士免許がそれであった。
 そもそも小型船舶とはプレジャーボートとか漁船とか総20トン未満の船のことだ。ド素人が小型とはいえ船長になるには、これしかない。
 ただ、船長となるには、自ら船を所有するか、どこかのマリーナクラブの会員になってボートを借りるかしなければならない。船の係留費もかかるし、船も聞いたところの中古の安いので20万円、普通は400万円から500万円するらしい。とてもこれは手が届かない。船長になるのは、今後「機会があれば」ということにして、「これがなければ話にならない」免許を取得を目指すことにした。
 ところで小型船舶免許には1級と2級があり、その違いは航行区域にある。2級は海岸から5海里以内に限定されるが、1級は無制限。つまり竹島や尖閣諸島にも行けるわけである。学科試験は1級の場合、海図、天気図、機関の知識を問われる上級航行の試験が課せられるが、実技試験の内容は同じ。試験の費用も約5000円しか変わらない。竹島上陸の計画はないものの「一級」という言葉の響きがいいので、筆者は一級を目指すことにした。
 この免許の難関は実技試験であろう。何しろ船を持っている知り合いは皆無で、「ちょっと操縦させてくれ」と練習することができない。ネットの体験談を検索してみると、免許不要な2馬力船外機の操縦経験のある人が2級小型船舶に合格したり、全く操縦経験のない人が、DVDのイメージトレーニングだけで1級に合格した例があるようだが、筆者にはそんな度胸はなかった。
 一般的にはボート免許スクールに通うらしい。これは自動車教習所と同じで、学内で修了検定を実施して、これに合格すると免許が発行されるもの。学科講習が24時間、実技講習が1人最短4時間の場合で11万円弱。確実に取得できる反面、道楽にしてはお高いし、時間に拘束される。何しろ筆者は会社員だから平日の昼間に講習など出れないのだ。
 もう一つは学科は自学自習で、実技のみボートに乗せてもらって教えてもらうというものである。これこそ筆者が望むものなので、近くて便利なところを探してみる。
 すぐに見つけることができた。「平成ボート免許教室」がそれであった。1級の場合学科講習2日と実技講習1日がついているAコースと学科は自習で実技講習1日のみのBコースがあり、総費用はそれぞれ96500円と76500円となっている。講習料金はそれぞれ62000円と42000円。つまりたった一日の実技講習が42000円必要なわけだ。
「ふむ・・・・」
 ちょっと高い気がするな。少し考えたが、やっぱり一発試験は不安なので講習を受けることにした。この教室では船舶試験の申請代行を行っている。もちろん別途費用が必要で、その内訳は身体検査料が3200円、学科試験料が5900円、実技試験料が18600円、申請手数料が6800円となっている。受検費用は34500円だ。
 ウェブサイトに受験申し込みフォームがあるので必要事項を入力する。しかしいつまでたっても連絡がない。仕方がないので電話で連絡する。おばちゃんが電話に出てきた。担当者は不在とのことで、こちらの携帯電話番号を教えた。夕方になって先方から電話がかかってきた。
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↑送られてきた資料

 まもなく資料が送られてきた。「君もボート免許を取ろう」という趣旨のマンガが入っていた。これは全国のボート教室共通で、裏に「平成ボート免許」のシールが貼ってある。必要事項を記入した申込用紙と写真を送り、講習料金と試験費用の合計76500円を指定銀行口座に振り込んで完了。
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↑学習キット
 程なく学習キットが送られてきた。立派なA4大のプラスチックケースの中にはテキスト一式とロープ、海図、三角定規、コンパスの両端の足が針になっているディバイダなどが入っている。すべて揃えれば1万円ぐらいはしそうだ。だいたい小型船舶の問題集は普通の本屋に置いていなかった。「平成ボート免許」の先生が書いたと思われる、海図問題の解説やコンパスの磁方位、時差、真方位に関する説明書きも入っている。
 とりあえずテキストを手にする。自動車の運転免許の教習本のような難易度だ。船は潮流、風の影響を受けるのでまっすぐ進むのは難しい。すぐには止まれないので、見張りをしっかりして周りの状況を把握しておくこと。天候の影響を受けやすく、出航すると孤立無援になるので、無理のない計画を立てること。そんなことは常識で考えてもわかることだ。
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↑海図
 よく考えてみると確かに船は難しい。クルマならトラブルがあっても、JAFなど救援が呼べるし、天候が急変しても、地に足がついているので、冷静になれば何とかなりそうな気がする。ところが船は助けを呼ぼうにも、現在地がはっきりしないし、すぐに救援は来ないし、身を隠すところもないので、最悪、船が転覆するなどしたら、生命も危険だ。
 小型船舶といえば、父が漁師で必要に迫られて取る人もいる。それ故、内容はそれほど難しいものではない。
 灯台の光り方、灯火・形象物の意味、海図の記号の意味。海に生きる人なら常識だろうが、自分には初めて目にするものだ。知っていたのは右舷が緑、左舷が赤の灯火を用いること。右=right(正しい)=青信号と覚えておけば忘れない。
 広大な海には道路に相当するものがなく、船は自由に動くことができる。ただ大型船は舵の効きが悪く、すぐに止まれず、岩場などがあるので、港の近くでは航路が定められている。基本的に船は右側通行で、右側に見える船に優先権がある。ただ航行不能船、漁労船、帆船、動力船の順に優先権があり、動力船のなかでも、細かく動ける雑種船より大型船に優先権がある。
 参考書を読んでも退屈なので、試験問題を解いてみることにする。私は数多く資格試験を受けてきたが、全く勉強していない状態で、過去問が5割以上の正当率であれば突破はできると経験からわかっている。合格点が6割とすると、過去問において8割以上の正当率が必要だ。5割から8割に上げるのはきっちり勉強すれば難しくない。3割から8割に上げるのは、至難の業で並大抵ではない。
 試験問題は1級2級共通の一般問題と1級のみの上級運航がある。
 一般問題は小型船舶操縦者の心得と遵守事項、交通の方法、運航の3つのパートがある。遵守事項はほぼ一般常識と考えてよい。あらためて勉強など不要だ。交通の方法は標識や灯火の意味や回避船、保持船の区別が問われる。これは知っていないと答えることができない。運航は、操縦方法や船の点検保守方法、気象に関する知識、事故対策が問われる。これは一般常識が通用する世界である。それぞれ12問、14問、24問の合計50問出題され、それぞれのパートで半数以上正解し、さらに合計33問以上正解すれば合格となる。平均すれば70%の正当率があればよいことになる。
 上級運航はパート1が「航海計画」「救命設備及び通信設備」「気象及び海象」「荒天航法及び海難防止」、パート2が「機関の保守整備」「機関故障時の対処」に分かれている。パート1が8問、パート2が6問出題される。なんといっても航海計画が難関であろう。海図を使い、三角定規とコンパスを用いて、船の現在位置を割り出したり、潮流を計算して、実効進路を定めたりする。確かに数学の苦手な人にはウンザリすることだろう。潮汐表の読み方や燃料消費量の計算などは、一見難しいが小学校の算数レベルである。気象に関しては天気図の知識が必要だ。高校の地学を思い出す。海難防止は事故事例から対応策を考える、文章は長いが、常識的に考えれば難しくない。パート2はエンジンやプロペラに関する知識を問われる。クルマの運転免許の場合、ほとんどメカの知識は問われないが、船舶は孤立無援の洋上であるから自力で修理できないと、生命の危険にさらされるから当然必要である。筆者は子供の頃からクルマのエンジンに興味を持っていたから、初めて目にする用語もあったものの、それほど難しいものではなかった。この上級運航も各パートで半数以上の正解をして、合計14問中10問正解すれば合格だ。こちらは7割強の正当率が必要である。問題数が少なく、間違えられるのは4問のみというのは1級らしい重圧といえる。
 総じて見てみると、自分の実力なら何とかなりそうに思えた。実際、過去問を解いてみると、何も勉強しなくてもほぼ70%の正当率だ。足りないのは標識と海図の知識、天気図の読み方ぐらいであった。間違えた問題をテキストを読んで理解し、理解できない事項はインターネットで調べたりした。インターネットにはややこしい標識の覚え方などが載っていて参考になった。
 難儀だったのは海図である。海図は「日埼至月埼」という架空の地形図を使用することが定められている。これがA2ほどの大きさがあって、これを机に広げるとはみ出してしまう。机といっても、筆者のは一人用の小さなコタツである。海図にはコンパスローズという方位角を示す360度分度器があらかじめ印刷されていて、コンパスローズから角度を取り出し、ふたつの三角定規を組み合わせて、目指す進路を描く。
 気をつけなければいけないのは、船の針路はコンパス針路つまり磁方位を適用するので、コンパスローズに描かれた内側の分度器を使うことである。外側の分度器は磁差を補正した真方位で、これは潮流を考慮する場合に使う。
 この海図を扱う問題は3問出る。
問題例:
Z丸は、西山市南方海域を速力9ノットで航行中、同市南方の竹岬灯台を磁針方位355°、桜島灯台 (Al WR 10s)を磁針方位077°に見る地点に達した。この地点から、秋島北東端灯台(Fl(3)12s)を 右舷に見て、再接近距離3.0海里で航過するには、磁針路を何度にとればよいか。次のうちから選べ。 ただし、この海域には流向190°(真方位)、流速2ノットの海流があるものとする。(試験用海図W200使用) (1) 121°  (2) 128°  (3) 135°  (4) 142°




 さて実際にやってみると、結構間違うのである。何しろ最初の船の位置を間違えると、芋蔓式に間違いを犯し、しかも間違えた値の選択肢が用意されていて、「これだ」と思ってそれを選ぶと間違いなのである。
 実際に問題をやった経験からいうと、この海図の問題は一度正解を得て、「よし、覚えた」と思っても、類似問題をやると、やっぱり間違えるのである。ただ海図の問題は船乗りの基本的な技術であるし、試験では得点源になるので、繰り返して例題を解いて覚えるしかない。

■■実技講習■■
 そんなこんなで試験の1週前の日曜日。ついに船に乗る機会がやってきた。試験前に練習できるのはこの日だけ。幸い天気は上々である。場所は地元の河口近くにあるアリーナ。アリーナといっても、セレブな雰囲気はなく、むしろ水上生活者を連想させるところであった。
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↑河川敷にあるアリーナ?
 先生はすでに待っていた。最近は漁師やら渡船業を継ぐ人が減り、受講者は下降線だと嘆いていた。田辺からやってきたもう一人の受講者が遅れてやってきて、講習開始。
 まずは船とご対面。座席は4人だけの小さな船。いやモーターボートである。
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↑練習した船
 最初は出航前点検。実際の試験は2問だけだが、何が出るのかはわからないので、すべて行うことになる。
 次にエンジン始動のシーケンス。これが終わったら巻き結び、もやい結び、いかり結びなどロープの結び方の確認。
 次にハンドコンパスの使い方。プリズムを立てて、目標に合わせ、その数字を読みとる。
 さていよいよ船を操縦する。まずは沖に出る前に係留と解らんを覚える。船にはすぐに止まれるブレーキはない。だから「行き足」という惰性で進むことを考慮し、水の抵抗で止まるように、早い目にスクリュープロペラを止める、すなわちクラッチを中立にする必要がある。係留するべき岸壁が近づいたら、舳先を岸壁から30度に向け、クラッチを中立する。もし行き足が足りなければ、微速前進してもよい。右舷に接舷する場合、舳先が岸壁まで2mに接近したら、舵を左に切る。このとき舷側をぶつけるほどに接近させないのがコツだ。船が岸壁を平行になったら、プロペラを後進し船を止める。その後、船に備え付けの棒で岸壁を引っかけて、船を岸壁に寄せる。ロープを持って、船を下り、ビットにクリート留めで船尾、船首の順に固定する。
 こう書くと長いが、それほど難しくない。というのは船はクルマと違って、ある程度の当てこすりは容認されるからだ。3回ほどの練習の中で何回か岸壁に当てたが、船に致命傷はない。
 これで午前の課題は終了した。
 昼からは沖に出る。船を全力航行させる。クルマよりスピード感がある。先生「右45度に変針」といえば、周囲を確認してからその方向に舵を切り、「変針終わりました」と返す。簡単なことである。
 次に後進。船は基本的に前進を前提に作られているので、プロペラの後ろに舵がある。したがって後進の場合、舵が利きにくい。風や潮の流れから舵を小刻みに動かさないと、方向を維持できない。まあこれも簡単である。ただ試験で忘れがちなのは後進の前にプロペラをチェックすることである。
 そして人命救助。これは試験の重要課題である。人に見立てたブイを拾い上げて救助するのである。まずは救助を右舷からするのか左舷からするのか決めて、救助用の棒を用意する。ブイは風と潮で流されているので、それを計算に入れながら、舳先を向けて、クラッチを中立にする。行き足が足りなければ、微速前進してもいい。船のクラッチはクルマのクラッチ板のようなものはなく、ギアがはめ合うドッグクラッチである。そのためいわゆる遊びが大きく、微速の感覚をつかむのは難しい。もちろんブイを船に当ててはいけない。接岸と一緒で、棒の届く範囲に離れるのがコツだ。中立を確認してから、船尾に移動し、棒を使ってブイを拾い上げ、「救助しました」を申告。これで完了である。潮流を読む難しさはあるが、慣れればなんとかなる。先生の助言に従い、とりあえず試験に合格すればいいので、左舷からの救助はあきらめ右舷一本に絞ることにした。
 最後に蛇行。あらかじめ等間隔に設置されたブイをスラロームする。「蛇行します」と申告してから、ブイから10Mくらいの距離を保ちつつ、大きく蛇行する。かなり傾斜するので結構怖い。忘れてはいけないのは蛇行が終わったら、3個のブイの延長線から船が大きく外れていけないので、蛇行を始める前にブイの先の目標物を覚えておくことだ。もう一人の相棒は何故か苦労していたが、筆者は割と簡単にこなせた。バイクのスラロームよりも簡単である。
 これらの課題を5回ぐらい繰り返した。時間は6時間ぐらいだろうか。これが4万2千円を要した講習である。試験は緊張するだろうが、まあこれだけやれば何とかなるだろう。実際、審査基準はそれほど厳しくないと聞いている。
■■試験1週前■■
 午後の問題を重点的にやった。未だに海図の問題を間違える。これは本番でミスするかも。そう思いつつももう時間的にどうしようもないので、運を天に任せて試験に挑むことにした。海図全滅でも他で全問正解すれば悠々合格だ。

■■試験本番(筆記試験)■■
 試験は和歌山マリーナシティで行われる。そこのヨットクラブの2階の会議室が試験会場である。1級2級合わせて20人ほどの受験者で、そのうち1級は5人だ。問題が多少多いだけなのに、1級挑戦者は少ないと思う。実用上は5海里で十分なのだろう。受験番号は2番。実にシンプルである。
 最初に適性検査がある。視力検査と色盲検査。色盲検査は光っている色が緑か白かを告げるだけだ。聴力検査は試験の言っていることが理解できるか。身体検査は「悪いところはありません」と申告するだけ。この検査だけで3200円も徴収される。
 次に筆記試験がある。1級は上級問題があるが、2級と同時に試験開始だ。
 9時40分に始まった試験は、特に難しくはなく、過去問そのまま出ている印象だ。だからこれは満点だろうと、自信満々で終了30分前の11時に退席した。講習の先生が様子見に来ていた。さっそく答え合わせする。
●一般科目
科目 問題数 合格点 正解数
心得及び遵守事項 12 6 12
交通の方法 14 7 10
運航 24 12 21
合計 50 33 43

●上級科目
上級運航1 8 4 5
上級運航2 6 3 6
合計 14 10 11


一般問題は7問の間違い、上級は海図で3問中2問、天気図で1問間違えたものの合格点に達していた。よし、これで実技試験突破あるのみだ。
 講習の先生は送られた学習キットのうち、三角定規とコンパスを回収した。これは使い回しになっているらしい。経営が苦しいことは承知しているし、筆者も必要なものではないので快く返却した。

■■試験本番(実技試験)■■
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 筆記試験の自己採点結果に関わらず、実技試験を受ける必要がある。学科試験は科目合格があるからだ。
 マリーナシティはヨットハーバーの他に、ポルトヨーロッパという一種のテーマパークのようなものがある。県内よりむしろ県外の来園者の方が多い。ここで昼食となったわけだが、テーマパークの食事は高くて不味い。しかも混雑していて落ち着かない。ここも例外ではない。
 ヨットクラブの休憩室で試験課題の確認。「もやい結び」に「巻き結び」ロープワークも繰り返す。
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↑ヨットハーバー
 試験の船は2隻用意されていて、1隻3人が基本だ。試験課題は1級も2級も共通である。筆者は午後1時試験開始で、1級受験の大学生風の若い男とヨットハーバーに勤めているという2級受験の若い女性と同じだ。若い男は父と420万円する船を買うと言っていた。女性は仕事上もっておいた方がよかろうという動機だった。つまり明確な目的を持っている。立派なことだ。筆者は仕事や趣味で使うわけではなく、単なる資格マニアである。彼らに説明して理解してもらえるだろうか。
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↑試験船が見えてきた
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↑船首
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↑船尾
 若い男はどうやら筆記試験で合格点に及ばなかったようで「1級は難しい」とぼやいていた。そういえば筆記試験前の身体検査を免除されていたから、もしかすると彼は前回に実技試験も落ちたのかもしれない。
 試験は1時に開始された。まずは設備の点検。試験官が指定して3カ所の設備を指さして「○○ヨシ!」と元気よく答える。筆者は機関装備はバッテリーと燃料チューブ。安全装備は発煙紅炎とアンカーの確認。次にエンジン始動。トラブルの対応と続く。
 解らん離岸は男性2名が先にやり、女性は後回しになった。船の出入りが激しいので試験官が港を出るまで操縦し、その間にロープワークやハンドコンパスのテストを行う。筆者のロープワークは巻き結びを指定された。最初にやった結び方は「それは巻き結びですか?」と言われた。やり直した。巻き結びはロープワークの中でも最も簡単だ。しかしこのように焦った状態では思い出せない。「これでいいのだろうか」と思いつつも、試験官はOKとした。
 最初の操縦は若い男が指名された。これは年齢ではなく受験番号でそうなったに過ぎない。変針、救助をそつなくやる。確認の声が小さいように思えるが問題視していないようだ。
 さて筆者の番だ。まずは人命救助。予定通り右舷からブイを拾い上げる。次に微速後進。忘れがちな船尾確認も怠らず。
 蛇行は3人続けて行う。これは練習段階からミスはなかったし完璧だった。
 変針は右ヨシ左ヨシと声だしして、右45度。完璧に近い。というか別に難しくもない。
 次にシミュレーション。試験官がボードを見せ、この状況ではどのような処置を取るかと質問する。ボードには正面から船が向かってくる絵が描かれていた。ふと外を見ると、偶然にも実際に船がこちらに向かっていた。シミュレーションではなく現実となったのである。船の世界は右側通行が原則。したがって右に舵を切って衝突を回避するのである。
 着岸は最初に若い男が行った。次に女性が後回しにされていた離岸のテストをして、筆者の着岸となる。我々が着岸離岸を繰り返している間に、着岸予定場所に別の船が着いていた。だから位置としてはさっきとは異なるわけだが、わずかだか船体を当ててしまった。練習通りに右舷を2mまで寄せて平行になったら後進。棒で岸をたぐり寄せて、ロープを持って降りて、船尾、船首と固定。完璧である。
 試験は2時半に終わった。
 受験者3人とも大きなミスはなく、試験官は「結果を楽しみにお待ちください」と言っていた。それにしても試験官は採点用紙も持っていないし、厳密な採点はしていないように思える。このあたり一つ間違えれば事故の可能性が高い自動車と、限られた人間が広い洋上で操縦し、なおかつその所有を普及させないといけない船舶免許とは、真剣差の度合いがまるで異なる。
 勝利宣言の余韻に浸りながらマリーナの駐車場を出る。料金ゲートの正面に飲料水の自動販売機がずらりと並んでいる。このような人通りの少ないところにこんなに並べてどうするのだろうか。日本のGDPは世界第3位らしいが、それはこうした無駄使いによって成り立っているのかと思うと、なんとなく日本は砂の上の楼閣のような気がしてきた。そしてこの自分のやったことも無駄ではなかったか。
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↑こんなに自販機いらない

■■試験結果発表■■
 1週間後、ウェブサイトで試験の結果が発表されていた。あっぱれ、1級を合格したのは筆者だけだった。残りの4人は実技は合格したものの学科で撃沈していた。
 数週間後、ボート教室から、免許証が送られてきた。なんと書留でなく普通郵便であった。
 免許は5年間有効で、書き換え時にはそれなりに費用が必要だ。更新を怠っても免許は失効しないが、再度講習を受ける必要がある。公務員を受け皿にしている特殊法人はこのようにして儲けているわけである。

■■おわりに■■
 筆者はこのようにして小型船舶免許を入手した。ある種の達成感があった。船を操縦するという普段の生活では得難い体験もできた。
 しかし投資に対する効果はどうか。今から考えれば、わざわざボート教室に行かなくても、一発試験で合格可能だったように思える。けれども、そうすると、船に乗る機会は試験の一回だけになってしまうかもしれない。練習したからこそ数時間乗れたのだから、それに関しては文句は言うまい。国内旅行でも九州や東北以遠で2泊3日の日程なら、7万円はかかるだろう。旅行で得られる感動が同じ費用で得られたのだ、それでいいのだと思うことにした。
 実際、この免許を取ってから、15万円とか45万円とかで中古のボートを買わないかという話があり、係留費用もなんとかなりそうな感じだった。しかし、自分は魚釣りもしないし、盗難や天候急変を心配しながら、船を所有する気にはならなかったので、丁重にお断りした。
 でもせっかく免許を取ったのだから、レンタルでいいから船を操縦したいものだ。小型船とはいえ船長になれるのだから。

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