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ムーンライトながら廃止 [旅行]


 JRから2021年をもって東京-大垣間を運転していた夜行快速「ムーンライトながら」の廃止が発表された。この報道に対してかつての利用者による惜別の声が寄せられた。総じて廃止を惜しむというよりも、「来るべき時が来た」「今までよく頑張った」という声が多かった。高速バスなど他の交通手段が発達した現在にあっては夜行普通列車はその役割を終えたというべきだろう。
 筆者が「ムーンライトながら」の存在を知ったのは、小学生の頃に読んだ「鉄道のわかる本」からであった。その本には「いちばん長いドン行電車(347M、344M)」として東京-大阪間を安く移動できる列車として書かれていた。その頃は「ムーンライトながら」という愛称はなく、俗に「大垣夜行」と呼ばれていた。当時は「ドリーム号」という夜行高速バスがあったものの、鉄道に対して運賃、設備ともさほどの優位性はなかった。だから普通運賃だけで眠りながら移動できて時間を有効に使える「大垣夜行」はとても人気があった。当時の車両は153系という急行型の電車で、4人掛けのボックスシートはとても快適とはいえなかった。しかしグリーン車が連結されていて、リクライニングシートが普通グリーン料金で乗れるとあって人気を博していた。当時の私は気軽に旅行に行けるような身分ではなく、そういう列車があるのだと知っただけだった。
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↑鉄道のわかる本
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↑1978年8月の大垣夜行時刻表
 上の時刻表は東京発の下り時刻表で、赤線が「大垣夜行の」時刻である。当時は定期の寝台急行「銀河」の他に多客期にはオール座席の臨時急行「銀河」が運転されていたのに驚く。
 やがて筆者が自由に旅行に行けるようになった平成時代には、夜行高速バスが台頭し、JR夜行列車を脅かしはじめた。特に大阪-博多間の夜行バス「ムーンライト」は3列シートを採用し居住性を高め、やがてこれが夜行バスの主流仕様となった。また東京-弘前間の「ノクターン」は地方都市でも収益性の高い路線となることを証明し、雨後の竹の子ように大都市と地方都市を結ぶ夜行バスが設定された。筆者の住む和歌山も東京へ直通する夜行バスが開設され、利用してみると、寝苦しさはあるもののとても便利で安価に東京に行けるようになり重宝した。
 大垣夜行は鉄道ファンを中心にまだ根強い人気があったものの、旧態依然としたボックスシートであり、勢力を伸ばしつつある高速バスに対抗するためにも、何らかのてこ入れが必要だった。そして1996年3月、大垣夜行は「快速ムーンライトながら」として生まれ変わった。車両は身延線の特急に使われていた373系が使われた。これは足乗せ付のリクライニングシートで快適になった。また基本的に全車指定席を採用した。大垣夜行時代はグリーン車を含めて自由席であり、多客時には通路に横になったり、デッキに身を沈めたりしていた。指定席料金500円は必要ではなるものの快適な特急車両に乗れるわけだから、納得できる話だ。
 しかしムーンライトながらは安泰とはいかなかった。規制緩和で観光バスを利用した低価格なツアーバスが運転されるようになり、さらに航空規制緩和で早期購入割引のような安い運賃の導入、さらに格安航空会社による価格破壊により、高速バスですら廃止するところも出現した。徐々に一般客は飛行機とこれまた安くなったビジネスホテルを選ぶようになり、ムーンライトながらは徐々に客が離れていった。特に普通列車ならJRの普通列車に乗り放題となる青春18きっぷの使える学校の休みの期間以外は閑散とするようになった。
 そして2009年からはその青春18きっぷの使える時期しか走らない季節列車となった。青春18きっぷを使えば高速バスよりはるかに安く、東京-大阪間を移動できるので、続行の臨時列車も運転されるほど人気があった。もっとも多客時の続行臨時列車は昭和時代から設定されてた。
 このような形で運転されていた「ムーンライトながら」だが、2020年の新型コロナウイルス対策としての外出自粛要請は、これ列車の存在意義を問い直す結果となった。2020年3月29日の大垣行きを持って「ムーンライトながら」は多客時でも運転されなくなり、2021年1月車両の老朽化と乗客の減少を理由に列車の廃止が発表された。
 そんな「ムーンライトながら」だが、筆者は2度の乗車経験がある。東京に早く前述したように和歌山からは高速バスで東京に出る方が、安くて快適なのだが、東京到着時刻に問題があった。1998年4月の中山競馬場、同年11月の東京競馬場を訪ねる旅だった。当時の競馬場の指定席は事前予約はなく、朝早くから窓口の前に並ばなければならなかった。高速バスで東京に着いて移動したのでは並ぶのが遅くなるからであった。当時はスマートフォンはもちろんデジカメもなく、競馬場用にフィルムを確保する必要があったので「ムーンライトながら」の写真は一切残っていない。当時の日記にはこのように記述されていた。

1998年4月17日 (原文ママ)
 阪和線から環状線に乗り、大阪駅で友人と合流。21時00分発の新快速に乗る。はじめ神戸方面の間違って5番線に上がり、続いて京都方面の7番線に上がったが新快速は9番線からの発車だった。階段の上り下りでいい運動になった。
 近江八幡でやっと座れた。22時23分米原着。22時25分発大垣行きに乗り換え。117系系4両編成。進行逆方向、車端、窓が開いていたので寒かった。
 23時3分大垣着。橋を渡って1番線にムーンライトながらが待っていた。我々は最後尾の1号車。指定席は3両。前の6両が自由席となる。
 23時8分、1号車に約10名の客を乗せて出発。久しぶりのウィスキーが気持ちが悪くなるほど睡魔を誘う。名古屋で8割ぐらいが埋まった。そして岡崎で記憶がとだえた。
 翌日4時16分、横浜到着に気付く。しばらく夢と現実がごっちゃになった。いつのまにか9割5分埋まっていた。
 洗面所の数が少なすぎる。この車両は昼行用としては合格でも夜行用としては難点がある。上の送風機からの風も冷たく、特に腹が冷えた。
 定刻4時42分東京着。未明とはいえ東京の電車は1両20名の客がいる。



1998年11月20日 (原文ママ)
 阪和線快速の車両、クハ111-7041。阪和線はゲームで過ごすも眠気が襲ってきた。
 環状外回りで大阪着は19時53分。その3分後に友人と合流。彼は皮ジャンにジーンズ。
 予定を早めて20時00分発の新快速に乗る。石山で私が座り、草津で友人が座った。
 米原からの豊橋行き快速は113系。相席にならずに座れた
。  大垣到着。予定通り西側ローソンに向かい、つまみと朝食を買う。
 マフラーなしでは寒い大垣であった。ところで今回私はコートにフードをつけ忘れていることに気がついた。これがあると思ってイヤーパットを持ってこなかったのに競馬場で心配だ。
 23時03分、ムーンライトながらが入線。半分の乗車率。我々の席は3号車4CDで大阪よりのドアから2列目で比較的揺れてうるさい。ついでに車両の真ん中のグループもうるさい。車両を見ると1番2番がグループ用のシートで大阪よりから3番から14番まで並んでいる。今日の指定席は完売しているという。
 その通り満員で女性はディズニーランドに行く人が多かった。
 持ってきた焼酎のおかげでよく眠れたが、沼津ではドアからの風が冷たかった。結局2時間ぐらいしか眠れなかった。お尻が痛くなった。
 定刻4時24分川崎着。トイレに行く。ホームは寒いので階段を2往復した。
 南武線は103系。5時25分府中本町到着。競馬場への連絡通路はまだ暗い。また人影も少ない。西門から見える1コーナーがライトに映える。

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↑当時の上りムーンライトながらの発車時刻

 東京行きは名古屋からの乗車が多く、大船あたりからも初電として利用されていたのがわかる。11月の青春18きっぷの使えない時期でも指定席が売り切れていたというのに驚く。競馬場やディズニーランドのように早くから入場門に並んでおきたい人たちにとっては、5時前に東京に到着するのはかえって都合がよかったのだろう。ムーンライトながらがこんなにも早く東京に到着するのは通勤通学ラッシュを避けるためだ。従ってムーンライトながらもしくは大垣夜行は伝統的にこの東京に向かう上りより、到着時間帯が利便性に優れていた下りが多く利用されていた。
 その下りに乗る機会はついに恵まれず、2008年3月東京-大阪間の寝台急行銀河も廃止された。その翌年に季節運転になったムーンライトながらはその後、車両もJR東海の373系からJR東日本の185系という古い車両に変更され何とか命脈を保ったが、前述のように2020年3月の運転をもって廃止された。
 JR東海にとっては客単価の安い青春18きっぷの乗客のために、車両を仕立て、客扱いのための人員を配置することに費用対効果を見いだせなくなったというところだろう。これでかつては全国各地に走っていた夜行普通列車は全て廃止された。夜行旅客列車は東京-高松を結ぶ「サンライズ瀬戸」とそれに併結して走る出雲市行きの「サンライズ出雲」のみとなった。それ以外の夜行列車としては七つ星のようなクルーズトレインがあるとはいうものの、これらは乗車券を買っていつでも乗れるものではなく特殊な列車だ。あとは近い将来北海道新幹線が全通したら、もしかすると飛行機に対抗するためにカシオペアのような豪華寝台電車が走るかもしれないが、可能性は高くない。結局夜行列車の最後の牙城「サンライズ瀬戸・出雲」に頑張ってもらうしかないだろう。まだ乗られていない方は早い目に乗っておいた方がいい。廃止が報道されると寝台券を入手するのが難儀するからだ。

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