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三江線の沿線をクルマで走ってみた [鉄道]

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 JR西日本三江線。その名を聞いても、どこにあるのか知っているのは鉄道ファンか地元の人だろう。三江線は広島県三次市と島根県江津市を結ぶ全線108kmの陰陽連絡線である。中国随一の大河、江の川に沿って建設された。ただし戦前に南北両端が開業してからしばらく放置され、中間部分が完成して全通したのは1975年とあまりにも遅かった。そのころには完全にクルマ社会になっていて、せっかく全通した三江線は見向きもされない状況であった。それがわかっていながら建設されたのは、島根県出身の大政治家の働きかけがあったのでは、と個人的に思っている。
 路線は江の川に沿って建設されたので、三次と江津間の最短距離を結んでおらず、広島-松江はおろか、広島-浜田はもちろん、三次ー江津の都市間輸送さえ利用する価値のない線であった。開業以来、ごく僅かの臨時列車を除き、定期の優等列車の運転がなく、普通列車の直通運転すら当初は運転されなかった。運転本数は現在一日5本で、車両も小型のディーゼルカーの単行運転である。
 こんな低需要の線が廃止を免れていたのは、沿線の道路が未整備であると判断されたからだ。しかしながら最近はそれも解消されつつある。近年、地球温暖化の影響で集中豪雨が日本列島各地を襲うようになった。この三江線もたびたびその被害に遭い、長期間の不通が余儀なくされていた。その際はバス代行運転を行うわけだが、多少の時間を要するとはいえ、バスで交通機能しているということは、実のところ道路整備がされているという事実を証明していることに他ならない。過去復旧に1年以上かかったこともあったが、特に不便であるとの声はなかった。あっても沿線に人口が少なすぎて声にならなかったのだろう。
 三江線にさらに致命的な弱点があるとすれば、沿線に温泉とか世界遺産とか風光明媚な場所とか、偉人の足跡とか観光名所になりうる施設などが全くないことである。
 JR西日本の見解は概ねこんな感じだ。
「三江線は都市間連絡としては機能せず、観光需要もなく、地域輸送にしても、過疎化で人口が減り、先に期待のもてない状況だ。鉄道は大量高速輸送でこそその真価を発揮できる。現在の三江線は鉄道の施設を維持するだけの需要はない。道路整備も確実に進んでいるので、この際三江線は廃止し、沿線自治体がバスなどの公共交通を考えていただきたい」
 しかし地元は納得しなかった。三江線の利用客が少ないのは、列車本数が少なすぎるからだ、行政としても回数券に補助金を出したり、住民に啓蒙運動して利用を促進し、(無理矢理作った)観光スポットを旅行客にアピールするから運転本数を増やしてほしいとJRに懇願した。そこまでいうならと、JR西日本は実験的に代行バスの本数を増やし需要を喚起してみた。鉄道は本数を増やしたくても、設備がそのように対応できないのだ。実験は無惨なもので、本数を増やしても乗客は増えなかった。沿線の人はクルマをすでに持っているので、わざわざ時間のかかるバスに乗らない。ローカル線の客はクルマを持たない高校生が主力である。それも少子化で子供の数が減っており、バイク通学や学校がバスを用意すれば、鉄道の必要性もなくなってしまっていた。
 JR西日本は「これでわかっただろう」と廃止やむなしをやんわりと口にした。しかし地元は三江線活性化協議会を立ち上げ、2011年から総額7600万円の予算を投じて、何とか乗客を増やそうと取り組んだ。しかし利用者の減少に歯止めがかからない。沿線自治体は「まだまだ活性化の取り組みを行う余地があるのではないか」といった趣旨の意見が出されているようだ。
 地元の本音ははっきりしている。どうやったって三江線の乗客は増加しない。だからできるだけ長い期間JR西日本に運行をお任せしたいのである。最大の目的は輸送需要があることではなく、鉄道を失うことによるステータスの維持なのだ。だから年間数十億の赤字がでるのが確実な三江線の経営を引き受けるつもりはないのだろう。地元自治体が共同でバスを運行すれば、その百分の一の赤字ですむ。結論はそこに落ち着くしかないのだが、時間を稼いでいるのだろう。
 そしてついに、2016年9月30日、JR西日本が廃止日を2018年4月1日とする廃止届を国土交通省中国運輸局に提出した。これで三江線の廃止は免れないものとなった。日本鉄道全線完乗者としては寂しい限りだが、これも時代の流れである。三江線には別れを告げに行こうと思った。
 実は筆者が三江線に乗ったのは1985年8月。当時はまだ国鉄の運営で、国鉄時代に乗ってそれ以降乗っていない数少ない線の一つだ。当時の三江線の記述は以下のようになっていた。

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江津6:50(三江線325D)9:53三次
 6時に起きた。駅前の旅館を出発。江津では列車を乗り間違えるところであった。
 三江線は2両編成のキハ47。乗車率は各ボックスに一人ずつというところ。
 しかし空は曇。だんだん混んできた。石見川本でまた車内は閑散となった。9時頃また客が増えた。沿線を流れる江川もさして興味がなくなった。
 終着の三次は乗り換え駅で大きい。文庫本と鮎寿司を買って、駅の写真を写そうと思ったが面倒になってやめた。
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 あまりに簡潔な記録である。だが今見直すと、なかなか味のある記録である。まず、当時は2両編成だったということ。乗車率はボックスに1人程度だから、単行では厳しいとの判断で、当時はそれなりに客が多かったのだろう。だんだんと混んできて石見川本で空いたということは、江津からこの方面への通勤通学需要があるのだろう。石見川本の少し先の浜原までは戦前に開通している。古くからの集落が存在するのだろう。ただし災害で不通になるのはこのあたりが多い。9時頃客が増えたとあるが、これは沿線の要所である口羽に到着したことを示す。ここからは戦後しばらくして開通した古い区間である。それまでの記述が全くないのは新しい線でトンネルが多く、おそらく眠っていたのだろう。ここからは三次方面への旅客流動がある。この線は江の川に沿って走る。従って江の川を見飽きて興味がなくなるのは当然だ。三次は広島内陸部の主要都市で芸備線と連絡する大きな駅だ。

 そんなもう一度三江線に乗ってもいいのだが、今回はクルマで三江線沿道を走ることにした。道路の整備状況を確認するのが第一の目的。第二の目的は三江線で最も有名なポイント、といっても鉄道ファン限定だが、宇都井駅をじっくり眺めるためである。宇都井駅はトンネルとトンネルの間にある高架駅で、地上5階分の高さにある「天空の駅」と呼ばれている。もし鉄道で行ったら、この駅で降りてしまうと2時間は手持ちぶさたになってしまう。だからクルマで行こうというわけである。
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↑三次駅
 2016年2月27日午前10時43分、筆者は三次駅にいた。ここからクルマを走らせて、江津駅を目指す。方針としてはできるだけ三江線に沿った道を走ることにしていたが、やむを得ないときはこの限りではないとした。江の川を渡る箇所が道路と鉄道が離れていることが多く、浜原ダムを回避するため、三江線は道路から大きく離れるところがあるからだ。
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 10時50分、出発進行。しばらくして堤防を降りれば三江線の沿道を走れるのに、うっかりそのまま直進。結果として三江線の対岸の国道375号線を走ることになった。ようやく橋を見つけた。狭く古い橋で対向車がくればやっかいなことになるが杞憂だった。三江線の踏切を渡ると、右側に所木駅がみえた。ここからはしばらく線路を見ながら走った。
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↑所木駅
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 式敷駅を過ぎると、三江線は江の川を斜めに横断し対岸に移る。筆者のクルマはそのまま進んだが、当面橋がないことに気づき、途中で引き返し、式敷駅手前にあった橋を渡った。
 また三江線に寄り添うことになった。しかし線路は香淀駅を過ぎるとまたも江の川を渡り、対岸に移った。また橋まで戻って対岸に移るかと思ったが、クルマはそのまま直進し、国道375号線を進んだ。
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↑斜めに江の川を渡る三江線
 しばらくすると橋があったので左折し、三江線との合流を目指した。目の前に作木口駅があった。
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↑バス停のような江平駅
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 しばらく走って左折し、この地にふさわしくないほどの立派な高架橋で線路を越える。高架橋の下には口羽駅がある。このあたりは三江線沿線随一の集落となっている。
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 カーナビにだまされてしばらく県道7号線を直進していたが、やがて間違いに気づいてUターン。
 三江線は口羽を出るとすぐに川を渡る。しかし伊賀和志という人名のような駅を過ぎると、また川を渡る。この口羽からは昭和50年代に開通した新しい路線で、トンネル、高架橋が多用されて最短距離を結んでいるからだ。
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↑口羽-伊賀和志間の鉄橋は新しい
 したがって筆者は橋を渡らず、そのまま江の川の左岸を進んだ。この道はグーグルマップによると県道294号線というらしいが、ただの田舎道である。
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 T字路を左折すると、山と山の間にT字型の高架橋が見えた。「天空の駅」宇都井駅である。時間は正午を迎えていた。駅周辺はそれなりに民家があるが、人影がない。雨が降ってきた。駅の直下の空き地にクルマを止め、雨宿りするように駅舎に入る。駅舎といってもただの階段である。エレベーターはない。5階建てのビルに相当する高さまで階段を駆け上がらねばならない。
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↑宇都井駅遠景
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↑宇都井駅
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↑宇都井駅反対側
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↑駅入り口
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↑階段
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↑あと26段
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↑最上階待合室
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↑時刻表
 やがて最上階に着いた。アルミサッシを開けるとそこはホームだった。右を見ても左を見ても線路の先はトンネルが口を開けている。鉄道ファンには有名な駅なので訪問者は多く、書き込みノートも置かれている。
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↑駅名標
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↑駅の両端はトンネル
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↑駅から下を望む
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↑書き込みノート
 次の列車到着までは1時間以上あるので、ここを立ち去ることにする。
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 県道294号線を進み、JA島根おおち大和支所を右に曲がって、江の川を渡り、再び国道375号線を進む。険しい川岸を三江線と国道が平行して走る。右手には潮温泉大和荘がある。しかし観光地としては魅力に欠けるのか人影が見あたらない。
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 それにしても人気がない。民家はあるのだが、人の姿が見えないのである。いたとしてもいったい何の仕事をしているのか。農業か林業か。商業施設もないに等しい。まるで昭和から時が止まっているようだ。
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 潮発電所を過ぎると三江線は右手に進み、川を離れて山を目指す。浜原ダム湖を避けるためである。しかし道路はそのまま直進し、ある程度川沿いを進んでから、トンネルに入った。しばらくしてクルマは国道を離れ、三江線沿いの道を進んだ。粕淵駅に立ち寄ってから、線路に寄り添って進む。明塚、石見簗瀬、乙原、竹、木路原、石見川本、因原、鹿賀、石見川越、田津、川戸といった駅を通り過ぎる。
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↑粕淵駅
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 13時23分鹿賀駅を過ぎたところに線路越しに小さな滝が見えた。それを写真に撮り、しばらく進むと汽笛が聞こえてきた。しばらく進むと、単行の気動車が現れた。江津を12時34分に出発した浜原行きである。全く意図していたわけではないが、絶妙のタイミングで列車の走行動画を撮ることができた。残念なのはクルマのフロントガラス越しなので、不鮮明であることだ。
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↑小さな滝が見える

↑ちょうど列車がやってきた
 石見川本は高等学校が、川戸には江津市役所支所があるほどの集落だが、その他の駅は1日10人以下しか利用客がいない。JRのローカル線は高校通学生の利用客が多いものだが、この三江線は開通当初から本数が少なく、スクールバスが幅を利かせているので、利用客が少ない。
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 この先の線路沿いの道は行き止まりとなるので、江の川を渡り、川平駅の手前の橋を渡り、再度線路と合流した。ここから先は道路が線路に全体の半分ぐらいしか並行していなかった。終点の江津のひとつ手前の江津本町駅を右手に通り過ぎる。駅前には何もないが、しばらく走ると民家が密集している。
 14時2分、国道9号線バイパスを潜り、14時7分終点の江津駅に到着した。小ぎれいになった三次駅と異なり、国鉄時代から変わらぬ江津駅のたたずまいだ。これで約3時間20分の三江線を巡る旅は終わった。
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↑江津駅
 三江線沿線を実際に走ってみての感想だが、道路は十分整備されているし、将来の人口を考えても、交通弱者の対策としては、タクシー会社の委託によるマイクロバスの運行、中高校生に対してはスクールバスで対応可能と思われる。沿線には起爆剤になりそうな観光地もない。したがって廃止は妥当であると確信した。
 ただ口羽-浜原間の線路は新しく、鉄筋コンクリート造りの高架橋もあって壊すにも費用がかかる。それに宇都井駅という鉄道ファンにとっては垂涎の駅もある。そこでこの区間は保存鉄道として残し、台湾の烏来台車のような小型エンジンによるトロッコ列車や、ペダル走行による車両など、遊戯観光施設として利用するのはどうだろう。壊すよりもその方が価値があると思う。

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