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北海道新幹線新函館北斗開業を検証する [鉄道]

 2016年3月26日、北海道新幹線が新函館北斗まで開業する。東北新幹線の新青森から青函トンネルを抜けて、ついに新幹線が北海道に到達する。東京から新函館北斗まで最速4時間2分で結ばれる。道民にとって待望の新幹線だが、過去の新幹線開業に比べてどうも期待感が低いように思われる。まずは筆者が考える理由を列挙していきたい。
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1.新函館北斗駅が函館市中心部から離れている
2.青函トンネルで高速運転ができない
3.函館市の人口が少ない
4.新函館北斗駅の乗り換えが不便
5.JR北海道の運営能力の問題


 第一の問題は新函館北斗駅が函館市中心部から北へ約20km離れた北斗市にあることだ。これは北海道新幹線はもともと札幌への最短距離を目指した路線なので、函館市に寄ると、大きな遠回りになるためだ。この新函館北斗駅にしてもその南側は急曲線でいかにも「ここが限界です」と言いたげである。そこで新函館北斗駅から函館までは在来線を利用することになるが、所要時間は15分ということだ。ちなみに函館空港は市内中心部から10キロと路線バスで20分程度の所要時間である。飛行機とたいして時間が変わらず乗り換えも不便とあっては、飛行機の客の3割ほど転移すれば上出来だろう。
 それでも新函館北斗駅周辺に人口が少なくても知名度の高い観光地があればまだ救われる。ところが駅の周辺には駒ヶ岳とか大沼公園といった観光地があるものの、函館や登別温泉のような知名度に欠けるといわざるを得ない。ここから札幌方面や函館方面への乗り換え需要で9割をまかなうしかないだろう。
 「新函館北斗」という駅名にも疑問を感じる。元々は新函館という仮名称で建設されていた。しかし駅の所在地のある北斗市から「北斗の名を入れて欲しい」という要望があり、このような名称になった。けれども、そうであれば「新」を付ける必要があるだろうか。「函館北斗」の方が語感も字面もいいし、たった一文字でも少ない方が宣伝上何かと便利なはずである。
 第2は青函トンネルで高速運転できない点である。青函トンネルは新幹線を通す規格で作られたが、開業時点では新幹線が盛岡までしか開業していなかったので、暫定的に在来線で利用していた。ところが在来線の貨物利用が当初予想よりも多く、一日20往復が設定されている。近年はトラック運転手が人手不足で鉄道貨物が見直され、増発の声が大きくなっている。しかもフェリーと違って天候に左右されない強みで、荷主の信頼も高い。それに対して旅客輸送は北東北と函館あるいは札幌間の地域輸送が中心で顕著な需要はない。寝台特急カシオペアは数少ない東京ー札幌間の長距離需要であるが、これは青函トンネル内の機関車の問題もあって廃止が決まっている。つまり旅客輸送は新幹線、在来線はほんの一部の回送列車、臨時列車を除いて貨物列車が中心という構図になる。
 貨物列車はコンテナを積載して運行される。高速運転する新幹線とすれ違ったとき、コンテナが脱落しないかという懸念がある。この懸念は民主党政権時に突然出されたもので、何やら政治的な意図が感じられるが、確かに実験すらしていない。
 さらに貨物列車は夜間にも運行される。首都圏対札幌圏の貨物輸送を考えた場合、青函トンネルを深夜に通過するのが最も効率がいい。現にそのように運行されている。ところが新幹線は0時から6時までは列車の運行を止め、その間は保守時間に当てることで、安全性が担保されている。貨物列車を今まで通り運行しながら、高速運転に必要な保守工事ができるのか。まして青函トンネルは車輪の幅が異なる新幹線と在来線を共用するため3線軌道となっている。共用部分の片側のレールが偏磨耗することによる、高速運転の安定性の確保できるかは未検証だ。さらに新幹線の常用速度は260km/h、貨物列車は100km/hだ。待避設備のない青函トンネルで追突事故が起きないようにするには今までの信号システムでは対応できない。よって当面の解決策としては在来線の最高速度である140km/hの基準で保守し、その速度で新幹線を走らせるしかない。そして運行しながらコンテナ落下対策としてトンネル中央に遮風壁を設け、追突を避けるための信号システムの開発、さらに高速運転の保守ノウハウを蓄積して、新幹線を200Km/h程度まで速度を向上させるしかないだろう。
 第3に函館市の人口が30万人弱と少ないことだ。観光都市としては日本有数の実力を持つこの都市も、北海道の玄関が函館港から千歳空港に移ってからは経済都市としての地位が低下している。昨年開業した北陸新幹線の場合は人口40万人を越える金沢市と富山市が控えており、かなりの需要が期待できるのと対照的である。
 第4の問題は新函館北斗駅の乗り換えである。前述したように、新函館北斗駅周辺には大して見るべきものはなく、函館あるいは札幌への乗り換えを便利にするのは、重要な課題といえ、JR北海道は九州新幹線の新八代駅のような同一ホームで乗り換えられるような構造にすると発表していた。ところがJR北海道は東京方面から到着した新幹線は同一ホーム側へ転線せず、最終列車を除いてすべて階段を使っての乗り換えになると発表した。東京方面行きは在来線の長万部方面からも函館方面からも同一ホーム乗り換えが可能とはいえ、東京から来た客をがっかりさせるような設備にするのか理解に苦しむ。しかもこのホームの配列では、新幹線が札幌まで開業して場合も、東京方面は同一ホームで乗り換えできないことになる。東京や札幌から函館への需要は間違いなくあるのだから、2面4線の新幹線ホームの真ん中に中線の在来線を設置する形態にするべきだろう。冬季の積雪での混乱を最小限に抑えるためにできる限り、お互いの影響をなくす形態にしたのだろうが、このあたり、JR九州とJR北海道のセンスの違いを感じさせる。
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 この新函館北斗駅の中途半端な構造のために、勝機が見えてきたのが道南いさりび鉄道だ。道南いさりび鉄道は北海道新幹線が開業に伴い、経営分離させる木古内-五稜郭間の第3セクター鉄道だ。現在木古内-函館間は特急で45分弱。各停でも60分の所要時間だ。もしこの特急の速度で運転できる快速を設定すれば、新函館北斗まで行かず、木古内で降りて、道南いさりび鉄道に乗り換えた方が、15分ほど時間はかかるものの、新函館北斗経由よりも安く函館に移動できる。しかも沿線の上磯駅と清川口駅は北斗市の実際の中心地であり、その需要も取り込める。北斗市としては辺境で将来性もはっきりしない新函館北斗駅よりも、道南いさりび鉄道を快速運転する方が大多数の市民が便利になると考えるだろう。導入予定の気動車はJR北海道から譲渡された旧式な低性能な車両らしいが、ここは高速気動車を導入すれば、かなりの利用者がいるはずだ。地域輸送だけに甘んじるはずだった道南いさりび鉄道は都市間輸送という安定需要を得ることになるだろう。
 第5の不安は、JR北海道の鉄道運営能力の問題である。車両火災や保守点検不備による脱線事故など、経営陣の再三の再発防止宣言にも関わらず、JR北海道のトラブル続きは目を覆いたくなるほどだ。厳しい経営状態と気象条件があるとはいえ、これは言い訳にするべきではない。在来線ならともかく、新幹線は運行側の責任による死亡事故ゼロという記録を1964年以来継続中だ。もしJR北海道が事故を起こすことになれば、金看板に大きくキズをつけることになる。しかも青函トンネルは新幹線と貨物列車の混合交通という初めての試みだ。例え死亡事故がなくても、たびたび停まるようであれば、世間の非難は集中することになるだろう。
 北海道新幹線は函館暫定開業では、JR北海道にとっては赤字を生み出す存在でしかない。その埋め合わせのために、辺境の不精算路線は廃止を余儀なくされると予想される。しかしそのような犠牲を払ってでもその間に高速運転のノウハウを蓄積し、札幌開業に生かさないと、全通すれば長期間で見れば黒字になるはずの北海道新幹線が赤字となってしまうだろう。JR北海道の奮起に期待したい。


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